オーバードーズに気をつけろ(1)

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遭難しかけた事がある。

遭難とは言っても、最近の高尾山での話だ。

しかしその日は、たまたまライトも鈴も余分な防寒具も持っていなかった。

12月、冬真っ只中のとても寒い日の事だ。

冷え性の私は布団の中で体を丸めて朝の寒さを凌いでいた。

高尾山に登ろう、と思いついたのがその日のお昼の事。

勿論、山登りは午前中から行うのが定石だと知っている。

しかし、体を芯から温めたい私はどうしてもその日すぐに登りたかった。

高尾山に到着したのは14時頃で、他の登山客はぼちぼち下山し麓の蕎麦屋で一杯キメようという時分だった。

高尾山は私が子供の時から登っており、そこまで険しくも入り組んでもいない山だ。

道も知っている。

だからこの際タイムアタックでもしてみよう、と思った。

この時点でだいぶ頭がおかしいのはわかっている。

危機予測の能力に著しく乏しいのが私の様な種類の人間の特徴だ。

真似してはいけない。

タイムアタックをするならなるべく軽装で、と考えたため、行きに着ていた防寒着は脱いでバイクと共に預け、上半身はヒートテックに半袖、そして薄いジャージだけ身に着けた。

荷物はボディバックに小さく丸めたダウンと財布、おにぎりを一つ入れた。

コースは稲荷山コースを選択した。

一番急で時間のかかるコースだが、だからこそどれくらいの時間で登りきれるか気になったのだ。

さあいざ、と階段に足をかけ登り始める。

なるべく一定の速さで歩こうとすると案外しんどい。

そこで呼吸にリズムを作ってそれに合わせて足を動かしてみると、ドンピシャだ。かなり楽になった。

そのうち、頭は道の状態と体の動きだけを追う様になっていき、気づいた時には山頂にいた。

タイムはおよそ1時間。

しっかり測っていないが、速い方ではないだろうか。

そして何より、とてもとても気持ちがいい。

聞こえるのはリズミカルな自分の足音と、吸って吐く音。

水気を程よく含んだ冷たい空気が肺を優しく膨らませ、心臓を中心に体が温まっていく。

今は足の先まで暖かい。

登りながらヒートテックは脱いでしまった。

頭は空っぽで、心なしか精神統一できた気がする。

座っていないのに座禅でも組んでいるような感覚だった。

山頂で売っていた温かい甘酒を飲むと、体に染みるようで最高に美味しかった。

そこでふと思った。

このまま山を下ってそのまま帰るにはあまりに勿体無いのではないか、と。

こんなに気持ちの良い思いは、是非とももう一度体感したい。

下山した時日が落ちていなければもう一度登ろう、そう考えたのは私にとっては自然な流れだった。

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